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女同士であっても、いかに男の前で可愛い振りをするかというのは打ち明けるものではない。
男も同様だろう。
自分だけが小島の素顔を見せてもらっているようで、彼の横顔を思い出しては会いたくなる。
「でもよかったじゃん。意外だけど」
「まだ言うか」
二人で笑い合うと、テーブルに料理が運ばれてくる。
ディナーセットはパスタにスープにサラダにデザート、飲み物までついている。
「食べられるかね」
と放った夏樹の視線が、店の入り口に引き寄せられる。
入ってきたのは、この数年間夏樹に敵対心を向けてきたあの女なのである。
そう、東のところに通ってくるあの女だ。
咄嗟に、店員に渡さなくていい、各テーブルに設置されたデザートの小さいメニュー表を取り、顔を隠す。
「なに。あんたまだ頼むの?」
高い声で笑う真理恵に、突っ込むことさえ出来ず、ただ夏樹は顔を隠すことに終始した。
いぶかしそうに覗き込みながら、真理恵が食べ始める。
そのスプーンの音を聞きながら、しばらく待つ。メニュー表を鼻の辺りまで下ろすと、真理恵はもはや夏樹の様子を気にかけることもなかった。
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