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「お待たせしてすみません」
慌てた様子を装って、応接室のドアを開ける。
すっ、と立ち上がる気配。
目の前には艶然と微笑む、一人の女性。
「いえ、私こそ突然申し訳ありません、坂崎さん……って」
彼女は切れ長の目をさらに細めて美しく笑う。
口元のホクロが漂う色気を二割増しにする。
「お願いだから、そんなふうに他人行儀にしないで、祐」
「……しますよ。
仕事でいらしたんでしょ? 安藤さん」
「祐!」
彼女、安藤紗耶香は上目遣いで俺を睨む真似をする。
媚びを含んだその表情に、俺は心の中で舌打ちをした。
県内最大手、郷土が誇る老舗百貨店『桜屋デパート』のご令嬢であり、食品事業部部長。
安藤紗耶香は俺の元恋人だ。
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