652人が本棚に入れています
本棚に追加
「悪いけど、今日はこの後会議が入ってて抜けられないんだ。
事前に連絡くれれば付き合うよ、ビジネスランチならいくらでも」
「……そう邪険にしないでよ」
くっ、と紗耶香にネクタイを引っ張られ、俺の意志に反してその距離が縮まった。
強く香る香水も、綺麗に整えられてはいるが細く伸びた爪も、俺たちの仕事に相応しいとは思えない。
……俺は、どんな女でも紺野と比べてしまう。
「……離してくれないか?」
ネクタイを握ったままの紗耶香の手を掴んだその時だった。
「失礼します」
ドアをノックする音と同時に、紺野の声がドアの向こうから響く。
「……どうぞ」
「おい、紗耶香っ!?」
振り返ると、紺野がドアを半端に開けたまま固まっている。
「しっ、失礼しましたっ!!」
そう言うと、バタン! と派手な音を立てて、ドアが閉まった。
最初のコメントを投稿しよう!