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……紗耶香のことを振り払ってまで、紺野を追いかけるのはダメだ。
紗耶香に紺野の存在を知られたくはない。
俺は咄嗟に頭の中でそう判断を下した。
「紗耶香、部下に示しがつかない」
俺はきつく掴んでいた紗耶香の腕を離し、威圧を込めて睨み付けた。
「やだ祐、怖いわ」
そんな俺の表情に怯む様子もなく、紗耶香はにこりと微笑む。
「彼女が『高嶺の花』ね。
知っているわ、日興フーズの紺野ふたば」
つっと、冷たい指先が俺の頬に触れる。
「祐のあんな慌てた顔、初めて見たわ」
……紗耶香は紺野のことを知っていた。
俺は内心の動揺を悟られないように、必死で無表情を装う。
「今日は帰るわ。
次は事前に連絡するから付き合ってよね、ビジネスランチ」
そう言い残すと、紗耶香は何事もなかったかのような顔で、音も立てずに出ていった。
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