目には目を歯には歯を

24/36
前へ
/36ページ
次へ
……紗耶香のことを振り払ってまで、紺野を追いかけるのはダメだ。 紗耶香に紺野の存在を知られたくはない。 俺は咄嗟に頭の中でそう判断を下した。 「紗耶香、部下に示しがつかない」 俺はきつく掴んでいた紗耶香の腕を離し、威圧を込めて睨み付けた。 「やだ祐、怖いわ」 そんな俺の表情に怯む様子もなく、紗耶香はにこりと微笑む。 「彼女が『高嶺の花』ね。 知っているわ、日興フーズの紺野ふたば」 つっと、冷たい指先が俺の頬に触れる。 「祐のあんな慌てた顔、初めて見たわ」 ……紗耶香は紺野のことを知っていた。 俺は内心の動揺を悟られないように、必死で無表情を装う。 「今日は帰るわ。 次は事前に連絡するから付き合ってよね、ビジネスランチ」 そう言い残すと、紗耶香は何事もなかったかのような顔で、音も立てずに出ていった。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

652人が本棚に入れています
本棚に追加