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「……んだよ、それ」
坂崎の低くて冷たい声にゾクリとする。
掴まれたままの肩が痛い。
「好きな人がいるのに、ああいう相手もいるんだ?
それとも、あの人が長年の片想いの相手?」
「……違う」
「ほら、そういう所をだらしないって言うんじゃないの?」
泣き出しそうな心とは裏腹に、浮かぶのは呆れた笑みで。
だけど、きっと今の私は物凄く嫌な顔をしているはずだ。
「……長く一緒にいるけど、やっぱりおまえは俺のことなんてまともに見ちゃいないんだな」
「……え?」
「俺は自分から好きでもない女に声かけるようなこと、した覚えはない」
「坂崎?」
「俺の言うこと信じられないなら、それでいいよ、もう」
……坂崎の手が私から離れていく。
「遅くならないうちに帰れよ」
立ち竦む私の胸に残ったのは、いつまでたっても消えない痛みだけだった。
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