目には目を、歯には歯を2

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……やっぱり、恋愛なんて私には向いてないんだ。 私はどこか暗い気持ちで、カウンターに置かれたままでまだ口をつけていないワイングラスを見つめていた。 ーーその時だった。 「隣、よろしいですか?」 いきなり声を掛けられて顔を上げると、背の高い、端正な顔立ちの男性が私を見下ろしていた。 「各務さん、その節は……」 私は、隣のスツールに載せていた自分の荷物を下に降ろして、彼の席を確保した。 「お久しぶりです、紺野さん。……今日も素敵ですね。 あまりにお綺麗なので、声をかけるのに躊躇しましたよ」 「はは、そんな……」 お世辞とはわかっていても、褒められて悪い気はしない。 坂崎のことで落ち込んでいた気持ちが少しだけ浮き立つのがわかる。 「お仕事の方はいかがですか? 四月の社長交代から今までにも増してお忙しいようですね。 祐からも聞いていますよ」 各務さんの口から出た名前に、一瞬ドキリとする。
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