8/10 午前3時の鐘

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暗闇に包まれた部屋に稲光りが差し込む。 その後に襲われる喪失感と高揚感。 2つの矛盾した感情がこれほどまでに心地よく、気持ち悪いと感じた事はあっただろうか。 午前3時・・・ 全ての終わりと始まりを告げるかの様に、柱時計の低く重たい音がゴーン・・・ゴーン・・・ゴーン・・・と館を巡る。 稲光りが収まり、再び部屋には闇が訪れる。 まるで、その場には何も無いかの様に。 ふと私は腕時計にちらりと目をやる。 3時5秒・・・先ほどの出来事からまだ10秒も経っていない。 あぁ、時とは何故にこの様に無情にも長く、そして時には短く感じるのだろうか。 部屋を闊歩し、収まりきらない感情を弄びながら小さく呟く。 ・・・いや、感傷に浸っている場合ではない。 未だやるべきことが残っているのだ。 私は頭の中で何度もシュミレーションを行った事を現実のものへと実行する。 その手際の良さは、自分でも驚くほどに効率が良くでき、恰も熟練の技を魅せる職人の様なものだと自賛してしまう。 「これで全ては終わった。」 全ての行程を終えた私は、大仕事を終えたかの様なため息をつく。 再び腕の時計を見る。 4時20分・・・あれほど長く感じた時間は、たったひとつ作業を行うだけで早く過ぎていく。 やはり時とは無情だ。 今にも落ちてきそうな灰色の雲を見ながら呟く。 暫くして、高揚感が治まり始めた。 私は慣れないベッドに身を投げ出し、目を瞑りながら過去を思い出す。 鮮明な記憶と全身の痛み。 やがてそれは憎悪となり、再び体を揺すり起こす。 ・・・落ち着け。もう終わったのだ。 荒ぶる感情を無理やり押さえつけ、何もない天井を見上げる。 終わったのだ。 いや、むしろ始まったのかもしれない。 どちらにしろ、これから始まる「今日」が明るい「明日」であることには変わらないのだ。 今までの私は居ない。今日から私が「○○○」だ。 自分に言い聞かせるかの様に何度も呟き、やがて来る睡魔に身を委ねた。 そして、朦朧とする意識の中で一つだけはっきりと断言する。 私は今日、人を殺めたのだ・・・と。
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