8/3 午後1時の鐘

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家に着いてからは直ぐ様食事を摂り、風呂に入った後に部屋でネットサーフィンをする。 これが俺の毎日の日課である。 「そう言えば昨日隣の~」 食卓では母親と父親、それに兄の一樹が会話に華を咲かせている。 俺はそれを聞き流しながら食事を済ませ、足早に風呂場へと向かった。 家族との仲は決して悪いわけではない。 むしろ良好である。しかし、話すことがないから自分からは話さない。 昔からそんな人間だったと父親によく笑われる。 母親からは一度コミュニケーション能力の発達が悪いのかと本気で心配された事もあったが、特にそのような心の病を抱えているわけでもなく、単純に話すことがない。それだけである。 勿論、話しかけられれば相応の返事や会話はする。家族は勿論、友人や先生方に対してもだ。 しかし、自己アピールというものが苦手というか、自らの意見を率先して出していくというのは自分には合っていない。聞き手側を貫くタイプであると自覚していた。 暫くして、風呂場を後にした俺は自室へと向かう。その途中、一樹に呼び止められる。 「ああ、大樹。今日ちょっとパソコン貸してくれ。 大学の課題に追われててな・・・」 「ん、分かったよ。じゃあ下で本読んでるから終わったら声かけてくれ。」 サンキューと一言述べて一樹は部屋に入っていく。 一樹とは2つ離れた兄弟で、俺とは似つかない性格の持ち主である。 とは言え、読書が好きである点は同じ。お互いに幼い頃から本を貸し合う仲であった。 違うのは交友関係の広さ。聞き手側に回る自分に対して、一樹は話し手側が多く、自らの意志をしっかり伝えれる人間である。 中学時代はそんな兄を恨めしく思った時もある。しかし、持って生まれた才能の差であると諦めるしかなかった。 少し厚めの小説を手に、リビングへと向かう。 丁度母親が好きな番組が始まったらしく、テレビに釘付けになっていた。 そんな母親を尻目にソファに転がり、読書を始める。 「一樹にパソコン貸してるのか。」 風呂上がりの父親が声を掛けてくる。 返答の代わりに頷きを送ると、そうか。と一言述べて母親の元へと向かった。
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