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俺は一度読書を始めると没頭して周りが見えなくなる。
それこそ時間の流れを忘れるほどに。
読んでいる本に栞をはさみ、一度体を起こして時間を見る。
・・・既に時刻は午後11時をさしていた。
リビングには両親の姿は既に無く、あれほど賑やかだったテレビも既に消えていた。
ふと、携帯を取り出し画面を見る。
着信履歴が一件・・・穂香からだ。
丁度一時間前に掛かってきていたらしい。とりあえず折り返すと
「・・・遅い。
なんて冗談・・・寝てた?」
「いや、本読んでた。」
「はぁ・・・大ちゃん今度から着信音は爆音にするべきだよ。」
そんな他愛も無い会話を始める。
穂香とは幼稚園に入る前からの幼馴染である。
勿論幼稚園、小中高校、そして大学も同じという、典型的な幼馴染である。
周りが多感な時期は熱々のカップルだのと囃し立てられたりはしたが、お互いに(少なくとも穂香には確実にないと思う。)そんなつもりもなく、ただ昔から仲が良いから一緒に居るだけである。
そんな穂香と仲良くなったのも読書である。
近くの本屋で同じ絵本を買おうとしていた。
それまで顔を見たことある程度だったが、その場で初めて会話をした。
その時の第一声が、「私の方が先に買った!」
今でも鮮明に覚えている程、その時から穂香は変わっていない。
クスリと笑う。
すると穂香が怒った声で大ちゃん?と呼んでくる。
「いや、小さい頃の事思い出してな・・・
私の方が先に・・・「あああや、やめないか!
もうその話はよして頂戴・・・!」
この話を持ち出すと穂香は相当恥ずかしいらしく、普段見せない慌てぶりを露わにする。
サークルでやられた日のお返しには丁度いい。
「もう・・・それはいいの。
それより大ちゃん。9日以降って暇かな。」
カレンダーを確認する。うん、暇である。
「・・・暇だな。」
「分かった。
あのね、知り合いが皆で別荘においでって言ってたの。良かったら行かないかな?」
「了解。じゃあ・・・」
「あ、俺も行っていい?」
一樹がニヤリと口元を緩め、真横で聞いていた。
「一樹も来るの?大ちゃん、杏子に手を出さないように縛り付けといてね。」
「お、おう・・・。」
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