第1章 出会い

2/8
前へ
/12ページ
次へ
少年は、白い蝶々を見た。 綺麗な白色の羽は輝いていて、大きさは他のに比べると小さく、少しでも強い風が吹いたなら、簡単に飛ばされてしまいそうな気がするほど。 「きれいだなぁ……」 なぜそんな蝶がいるかを考えるには、少年は幼かった。 ただただ、そんな感想を述べることしか出来なかった。 そして、考える必要も無かった。 なぜなら、ここは少年の夢の中の世界だからだ。 そんなものに説明などいらない。 なぜ自分が一面緑の草原にいて、綺麗な白い蝶々を見ているかの説明はいらないのだ。 さて、夢の中で白い蝶々を見ていると、少年は誰かに呼ばれたのか振り向く。 もちろんそこには誰もいない。 しかしその声は次第に大きくなり、少年を現実の世界へ引き戻す。 「う、うーん……」 「アラン、起きた?」 「……うん、おはよう、お母さん」 「早くしないと遅刻するわよ?」 「え……今何時?」 「七時半よ。待ち合わせ、七時四十五分でしょ?」 そう言われ、初めて少年は壁に掛けられた時計を確認する。 それにつけられた大きな針は6を過ぎはじめ、小さな針は7の少し上を刺していた。 数秒間、少年はその時計を見つめる。 その間にも、三本目の針。 秒数を数える針はチクタクと動いていた。 そして、 「あ……」 と、声を上げると少年は寝ていたベッドから急いで起き上がり、服を脱ぎ捨てていく。 「ちこくしちゃう……」 さっきまで半開きだった目はパッと開かれ、少年の頭は準備運動をする暇もなくフル回転される。 「もう、ご飯食べてる時間も無いわよ」 「え、どうしよう。おなかへっちゃう」 「ハァ、それじゃパンは袋に入れといてあげるから、向こうで食べなさい」 「うん……」 そう言っている間に、少年は着替えを済ませ、目をこすり、洗面台に向かう。 蛇口を捻って勢い良く出て来た水を手で受け止め顔にかける。 「ぷはっ!」 と声を上げ、再び顔にかける。 この動作を何回かした後、部屋に戻り鞄を取る。 すでに少年の母親は散らかった服を片付けて、朝食のパンの入った袋を持っていた。 その袋をもらうと、「行ってきます」と声をかけ、玄関に向かう。 「いってらっしゃい」 その言葉を聞き終わる前に、少年はドアの向こう側へ行っていた。 「全く……」 そんな母親の思っていることなど知らずに、少年は待ち合わせ場所に向かって走っていった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加