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少年は、白い蝶々を見た。
綺麗な白色の羽は輝いていて、大きさは他のに比べると小さく、少しでも強い風が吹いたなら、簡単に飛ばされてしまいそうな気がするほど。
「きれいだなぁ……」
なぜそんな蝶がいるかを考えるには、少年は幼かった。
ただただ、そんな感想を述べることしか出来なかった。
そして、考える必要も無かった。
なぜなら、ここは少年の夢の中の世界だからだ。
そんなものに説明などいらない。
なぜ自分が一面緑の草原にいて、綺麗な白い蝶々を見ているかの説明はいらないのだ。
さて、夢の中で白い蝶々を見ていると、少年は誰かに呼ばれたのか振り向く。
もちろんそこには誰もいない。
しかしその声は次第に大きくなり、少年を現実の世界へ引き戻す。
「う、うーん……」
「アラン、起きた?」
「……うん、おはよう、お母さん」
「早くしないと遅刻するわよ?」
「え……今何時?」
「七時半よ。待ち合わせ、七時四十五分でしょ?」
そう言われ、初めて少年は壁に掛けられた時計を確認する。
それにつけられた大きな針は6を過ぎはじめ、小さな針は7の少し上を刺していた。
数秒間、少年はその時計を見つめる。
その間にも、三本目の針。
秒数を数える針はチクタクと動いていた。
そして、
「あ……」
と、声を上げると少年は寝ていたベッドから急いで起き上がり、服を脱ぎ捨てていく。
「ちこくしちゃう……」
さっきまで半開きだった目はパッと開かれ、少年の頭は準備運動をする暇もなくフル回転される。
「もう、ご飯食べてる時間も無いわよ」
「え、どうしよう。おなかへっちゃう」
「ハァ、それじゃパンは袋に入れといてあげるから、向こうで食べなさい」
「うん……」
そう言っている間に、少年は着替えを済ませ、目をこすり、洗面台に向かう。
蛇口を捻って勢い良く出て来た水を手で受け止め顔にかける。
「ぷはっ!」
と声を上げ、再び顔にかける。
この動作を何回かした後、部屋に戻り鞄を取る。
すでに少年の母親は散らかった服を片付けて、朝食のパンの入った袋を持っていた。
その袋をもらうと、「行ってきます」と声をかけ、玄関に向かう。
「いってらっしゃい」
その言葉を聞き終わる前に、少年はドアの向こう側へ行っていた。
「全く……」
そんな母親の思っていることなど知らずに、少年は待ち合わせ場所に向かって走っていった。
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