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【Aパート】
2夕方、事務室
佐神と遠藤は書類整理をしている。
御堂は何をするでもなく、夕闇に染まった窓を眺めている。窓のすぐ外には二匹の小鳥。
御堂「(急に呟く)鳥は……どうして空を飛ぶんだろう?」
佐神「え? そりゃ、飛べるように生まれてきたからだろ?」
御堂「そうだけど……どうして飛べるように生まれてきたのかな、と思って」
佐神「何言ってるんだおまえ」
御堂「うん……。私にもよくわからない」
佐神、言葉に困って遠藤の方を見る。遠藤、肩をすくめる。
遠藤「それは、進化論の話かしら?」
御堂「そうなのかな……よく、わかりません」
遠藤「どうして鳥が飛ぶように進化したのかと言えば、競争相手が少なくて、生存に有利だからよ」
佐神「生存に有利?」
遠藤「平たく言えば、鳥は空に逃げたのね」
御堂、鳥を見る。
御堂「この子たちも、逃げちゃったんだ」
遠藤「別に、逃げる事が一律に悪とは言い切れないわよ。大事なのは最終的な結果をどこに持っていくか。鳥は空を飛ぶという選択をして、今の形になり、生き残った。地上にこだわって絶滅するよりよっぽどいいわ」
佐神「あの、進化論が正しいとは限らないって話もあったような」
佐神が言うと、遠藤はうんざりしたようになる。
遠藤「スパゲッティーモンスターの話はやめて。私、ああいうの好きじゃない」
言いながらも、語り始める遠藤。
遠藤「そもそもね。鳥の存在こそが、ユニバーサルデザインを否定しているのよ」
御堂「どうして?」
遠藤「理屈が通らないからよ。鳥は空を飛ぶ生き物としては不完全だもの。もし神様がいて、空を飛ぶ生き物がいないのは寂しいと思いながら鳥をデザインしたなら、常に飛び続けるような生命体にしていたはず」
御堂「え?」
遠藤「わかるでしょ? 永久に飛び続ける鳥なんていないわ」
佐神「でも、渡り鳥とか……あ、ダメか。地上に降りて餌を取るんだっけ」
遠藤「どんな鳥でも、生まれるまでは地上にいるのよ。卵の状態では飛べないし、胎生の鳥というのも考えにくい」
御堂「じゃあ、もし常に飛んでいる生き物がいたら?」
遠藤「……生物学の常識に反するわね」
御堂「じゃあ、鳥はなんで空を飛ぶんだろう」
遠藤「さっきも言ったでしょ。飛びたかったからよ」
御堂「そっか」
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