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「だから言ったじゃん」
「なにがだよ」
得意気にソイツが話す。
「あの標識は『オジサンが女の子を連れて自転車で誘拐する』て」
「たまたま、だろ」
いいから僕の鞄を返せ、とソイツが持っていた鞄を取り返す。
「俺の勝ちだからね」
「もう、どうでもいいよ」
疲れた僕は鞄からタバコを取り出そうとする。
「あれ?」
だがいくら探しても、ない。
「探し物はなんですか~」
ソイツは歌を歌いながら、僕をからかうかのように尋ねてくる。
「ウルセー、僕のタバコはどこやった?」
「タバコ?」
「鞄に入ってただろ」
必死になって探していると目の前に差し出される。
「タバコって、これ?」
「おう、サンキュー、って、これ僕のタバコだろうが!」
僕はソイツの足に軽く蹴りを入れた。
「イッタァ!」
大袈裟だな。
痛がるソイツから自分のタバコを奪い返すと一本取りだした。
「どうぞ」
目の前に差し出された火にタバコを近付ける。
するとソイツが言った。
「な、俺は、貸しを倍にして返す男だろ?」
どこがだ!
ソイツは僕のタバコを一本手にすると火を付けた。
「っつーか、それ、僕の貸しだからな」
ソイツのタバコを指指し言った。
「案外、ケチだな」
僕とソイツはお互いの顔を見合わせ、大声で笑った。
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