雲雀は謳う

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チェンバロは、金属の弦を弾いて奏でる楽器でございます。 音色は弦楽器に近いものがございます。 湿気に弱く調弦がたびたび必要な手の掛かる楽器でございますが、旦那様はそれはもう天賦の才で弾きこなしておいででした。 その旦那様を悩ませている問題。 「私がチェンバロを弾くだけでは、あまりに芸がない。もっと、この楽器の音色を引き立ててくれる音はないものだろうか。」 旦那様は、ご自分のチェンバロの演奏に合わせて奏でられるものをお探しでした。 親しいご友人方をお招きしてサロンで演奏されるのが常でございますが、そこにほんの少しこれまでにないエッセンスをお加えになりたくなったのです。 旦那様のチェンバロの音色に相応しく、それでいて決してチェンバロより前に出てはならない音色。 旦那様は、日々それをお探しでした。
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