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歌い終わった彼女に、旦那様が満面の笑顔で申し出ました。
「素晴らしい声だ!君を雇いましょう。どうか、私のチェンバロの演奏に合わせて歌っておくれ。」
彼女は、驚いて後ずさりました。
「いいえ、私はほんの少し歌が好きなだけの貧しい女でございます。このような立派なお屋敷で歌わせていただけるような者ではございません。」
「私は身分を問わないよ。もし歌ってくれるのならば、君にはこの屋敷で贅沢な暮らしを保証しましょう。君の家族にも、十分な賃金を支払いましょう。」
家族と言われ、彼女の表情が揺れました。
おそらくは、養わなければならない家族がいるのでしょう。
彼女が私を見ましたので、私は大きく頷き、旦那様のお言葉が本当であることを伝えました。
それで、彼女はようやくこの館で歌うことを了承したのです。
「それでよい、私の金糸雀よ。すぐに君の家族にお金を届けよう。」
もちろん、私めがその任を果たしました。
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