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何度も練習し、ようやく彼女は旦那様とともにサロンにデビューいたしました。
美しく着飾った彼女は、もはや貧しい身分の女には見えず、旦那様のチェンバロと同様、この屋敷に相応しい調度品のように見えました。
体をコルセットで締め上げられ重い枷のような宝石を付けられ、彼女の声は本来の声よりも細く小さなものでした。
ですが、それこそが旦那様のチェンバロを際立たせ、サロンは拍手喝采の渦でございました。
その後も彼女は度々演奏にかりだされました。
その歌声は回を重ねるごとに錆びてまいりました。
まるで、金属の弦が腐蝕されていくかのように。
それに比例して、旦那様の奏でる音色はいっそう洗練され美しいものとなってまいりました。
「さあ、今夜も歌っておくれ、私の金糸雀。」
旦那様が手を差し伸べると、彼女は生気を失った顔でゆっくり自分の手を重ねるのです。
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