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「何故このような真似をしたのだね、私の金糸雀。」
旦那様は、非常に悲しんでおられました。
ええ、彼女は幾度目かの演奏ののち、サロンから抜け出しお屋敷を後にしたのです。
ただ抜け出すくらいでしたら、これほど大事にならなかったでしょう。
ですが、彼女は身につけた宝石とともに逃げてしまったのです。
それは、あまりに高額の盗難として手配されてしまいました。
捕らえられ罪人として引き出された彼女は、粗末な綿の服を一枚だけ着せられておりました。
「私の払う報酬が少なかったのかね、私の金糸雀。」
「いいえ、いいえ、違います、お優しいご主人様。」
後ろ手に縛られながら、彼女は背筋を伸ばし、正面から旦那様に答えました。
「私が悪いのです。狭い部屋で歌うことが耐えられなかったのです。広い空の下で、自由に高らかに歌いたかったのです。」
彼女は、雇われることで自由を明け渡すことになるとは思っても見なかったのでしょう。
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