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無言の時がしばらく続く。
その沈黙を破ったのは、意外にも彼の方からだった。
「あの……すみませんでした。取り乱してしまって……」
落ち着いた声色で言葉が紡がれる。
ことん、と音を立ててカップを机の上に再び置いて、気にするな、と応えた。
彼は、有難うございます。と微笑む。
「あの……オレ、銀路って言います。えっと……」
「銀狼、……見ての通りお前と同じだ」
「銀狼……さん。助けていただいて有難う御座いました」
互いに名乗れば、銀路は飲み終えたカップを机の上に置いて銀狼に向かって礼の言葉を紡ぐ。
「ただの気まぐれだ。気にする必要はない。あと、敬語もさん付けも苦手だ」
だから、普通に接してくれれば良い。
そんな意味を込めて言葉を紡げば、銀路は立ち上がり、がしっと銀狼の手を握った。
突然のことに、銀狼の瞳に一瞬焦りの色が燈る。
そんな銀狼の僅かな変化に、銀路が気付くはずもなく、握り繋がれた手を上下にぶんぶんと揺らした。
「ありがとうっ! 銀狼っ」
「わ、わかった。わかったから手を離せ」
ぶんぶんと手を揺らしながら言う銀路に銀狼は表情を一切変えず。
しかし、少し焦ったような声色で言葉を発する。
そんな銀狼の言葉に気付いた銀路はあわてて手を離し、ゴメンと頭を下げた。
ぐぅぅぅと、間抜けな音が二人のお腹辺りから聞こえてくる。
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