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「お前はそれでいいの?」
「……いい」
「……分かった」
布団の中から聞こえたくぐもった返事に、俺はそう言うしかなかった。
それ以上は何も聞けなくて香子から離れた。
ベッドに仰向けに寝転んで見上げる天井にはカーテンの隙間から差し込む日差しが細い線を引いていた。
昼間の煌々とした明かりをカーテンで無理やり遮って、さっきまで感じていた香子が急に遠くなる。
昔はこんなこと無かった。
香子がどんなに気持ちを隠していても、それを見抜くことは容易にできた。
本当のことを言えば今日だけじゃないんだ。
香子の思っていることを今までのように汲み取ってやることができないのは。
だけど、こいつの全てを分かってやれるのは俺だけだという自負がそれを認めさせなくて、ここまで引きずってきた。
香子が隠すのが上手くなったのか……
それとも、俺の力がなくなったのか……
いや、薄々は感じていた。
変わってしまったのは俺なんだってこと……
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