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―それは、紫陽花が色を鮮やかにする頃だった。
大学からの帰路、驟雨に見舞われた崇文は、旧い佇まいの軒先に雨宿りをしていた。
格子戸を開ける音に崇文が振り向くと、傘を差した楚々とした和服に白い割烹着の女が顔を覗かせた。
あっ、と小さく声を漏らすと、無断で軒先を借りている崇文は軽く会釈をした。
「…あの」
「えっ?」
邪魔だと、咎められるのかと思い、崇文は立つ位置を気にした。
「…良かったら、これ、使こうておくれやす」
黒っぽい男傘を差し出した。
「…しかし」
崇文は躊躇した。
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