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「どうぞ、使っておくれやす」
受け取るのを強制するかのように、女はもう一度、傘を持った手を崇文の前に差し出した。
崇文は照れ隠しのように頭を掻くと、ゆっくりと頭を下げて傘を受け取った。
それから数日経った快晴の日だった。
傘を持って歩くのは気が退けたが、次の雨まで待つのは、もっと気が退けた崇文は、目立たないように胸元に傘を隠すと、猫背になって往来の端を行った。
「…こんにちは」
前回は気付かなかったが、『書道教室』の標札が在った。格子戸から、青紫の紫陽花の咲く庭の少し障子の開いている縁側に声を掛けた。
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