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仕事に一区切りをつけてリビングに向かうと、キッチンから陽気な鼻歌が聞こえてきた。
足下に擦り寄ってきたクロを抱き上げてキッチンへと向かう。
クロを始め、我が家に住み着いていたネコたちの首にはいつしかパステルカラーの首輪がつけられていた。
『迷子にならないように』
そう言って紫が買ってきた首輪には小さな鈴がついていた。
「えらい、ご機嫌だな」
「わっ」
紫の背後から声をかけると不格好に切れたジャガイモ。
「もう、壱琉さんっ。びっくりするじゃないですかっ」
包丁を片手に振り向いた紫。
鋭く尖った刃先が妖しく煌めいた。
「何作ってんの?」
「ちょっ、壱琉さんっ。狭いっ」
自分の体を強引に押しつけるように覗き込んで、紫をシンクとの間に閉じ込めた。
「今日の晩飯?」
「そ、そうですっ。今日はお客さんがいっぱい見えるんですからっ……て、ほんと狭いですって」
「危ないから包丁、置け」
「そんなっ。壱琉さんが離れてくれたらいいだけじゃないですかっ」
「ほぉー」
こいつもなかなか言うようになったな。
躾のしがいがあるってもんだ。
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