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牧村の言葉に首を振る。
「その足跡だが、日に日に長くなっているらしい。それも日によって一歩だったり、数歩だったりすると」
次の日も、その次の日も。姿を見せず足跡だけが夜道を歩き続ける。夜の度に近付いてくる水音は自身が標的なのではないかと疑心を呼び、同じ時間帯に目を覚ましては肝を冷やし続ける。
自身の家の前を通り過ぎようと同じ事。次はその行き先…『答え』を求めて、水音を求め続けるのだ。
跳ねる水量は降り続ける雫にかき消され、朝には痕跡も残らない。そもそも質量を持たないものが長く印を残すわけもなく、時を経た現場で手掛かりが見つかるなどと考える人間はいないだろう。
その状態で現場検証に来た事を咎めない・呆れないのには勿論理由がある。
「晴れてる日も歩くんですか?」
「そもそも晴れの日が無かろうが…ふむ、数歩の日との兼ね合いを調べるか」
「足取りは?」
「最初は散り散りだったようだ。今はこの通りを歩き続けているらしい」
「最初だけ、ですか。ということは」
「まぁ、そうだな」
空いた手を伸ばすと、傘の端から落ちる雫が袖を僅かに濡らした。
「どうやら其れの目的は、この先にあるようだ」
人が住まう長屋の通り。その『奥』は雨に霞み揺れていた。
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