2人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
毎年の事ながら、鬱蒼としたこの季節がやってきた。
鉛色の空は所々に増した暗さを携え、延々と山の向こう側へと続いている。風に流される雲の早さは、天候の回復を望む心を諦めさせるには十分だった。
「おい」
それでも尚、その場所に在るのは彼の意地なのかもしれない。古田は黒い塊を目の前に呆れた様子で声を掛けた。
一度、二度、三度…名を交えて呼ぶも、返事はない。面倒臭さを覚えた彼は、最終的に強硬手段に出た。黒の塊を掴み、強引に外皮を引き剥がす。
「起きろ、牧村」
「……」
ごろんと転がり姿を現したのは、仲間内で『日向』と呼ぶに相応しい彼の人物だ。眠っていたわけではないにしろ、休息の時間を邪魔されたのだから良い感情は浮かばない。
不満や苛立ち、多くの八つ当たり。不機嫌を全面に出した牧村の視線をものともせずに、古田は鼻を鳴らす。
「偶には動け。腐るぞ」
剥がした黒色を簡単に畳み手渡すと、唇と尖らせた牧村が顔を背けた。「放っておけ」との事だがそうはいかない。
黒を枕に再度昼寝を決め込む彼を引き止め、古田は口を開く。
「宗匠より『仕事』の話が出た。付き合え」
師と共に並べられた単語は、只の説教だと聞き流していた牧村の耳にも届いた。眠そうにしていた目もぱちりと開き、身を屈める古田の方をしっかりと見る。
見返す視線は先程に比べると真摯なもので、しかし詳細を求めているわけではない。何を言うでもなく、彼はそっと片手を上げる。掌を向ける牧村に、古田は盛大な溜め息を吐いた。
「確認に行くついでに寄る。それ迄は我慢しろ」
項をがしがしと掻きながら彼が続けた答えを及第点としたらしい。納得し切っていない表情ながらも、牧村はのそりと立ち上がった。
最初のコメントを投稿しよう!