調査・初日。

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陽の光が恋しくなる程、今年の梅雨は雨が続いている。 勢いこそないが止まぬ雫は地面に多量の水分を蓄えさせ、池に似た水たまりを多く作り上げた。山が崩れるような被害が出ていないのは幸いな事だが、自然の脅威は何時人間に向くか判らぬものだ。こうしている間にも危機は迫っているのかもしれない。 勿論、危機は自然に限られるわけもないのだが。 「外に出るのは多少億劫にはなりますが、雨音は良いものですよね」 湿りを帯びた冷たい空気は彼の胃にも優しいのだろうか。心なしかすっきりとした様子で、傘を叩く軽やかな音に口元を綻ばせた。 「遊び気分とはいい度胸だな、瀬田」 「僕も瀬田さんも、付き合わされている身ですから」 溜め息交じりの古田の呟きは牧村にすっぱりと切り捨てられる。 じろりと睨むも本人はどこ吹く風。傘から垂れる雫から手の中にある包みを守りながら、傘で視線を遮り周囲を見渡し始めた。 二人のやりとりを微笑ましそうに眺めていた瀬田が歩み寄ってくる間合い、牧村が静かに口を開く。 「今回はどんな『仕事』なんですか?」 一点に力を込めて詳細を問う声に古田が口を歪めた。 「この界隈で、夜更けに足音がするらしい」
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