調査・初日。

3/5

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
茶席を通じ多くの人間と顔を合わせる師は、稀に変わった相談を受ける。 それも世間話の延長ではなく、権力や財力では解決出来ない類の相談。 奇妙な話、奇怪な話、不可思議な話…『怪異』の存在を匂わせる話題は、何故か尽きる事無く利休の耳に届き続けた。 弟子の中にそういった面倒事を好む輩もいる為、多くは別所での話題にもされず彼の記憶の片隅に片付けられる。しかし心の琴線に触れるものは後に古田へと伝えられ、調査を行う流れが出来ていた。 それは『仕事』と銘打たれているが、実際のところは茶会に顔を出さない古田に対する罰則である。 「いい加減、大人しく茶席に出たら良いのに」 手の中の包みから引っ張り出される饅頭は、今回の『仕事』の報酬だ。齧り付きながら小さく牧村は毒づいた。 牧村と瀬田。彼等に同行を頼むのは珍しい事ではない。古田が利休に『仕事』を申し付けられる時、必ずと言って良いほど彼は二人に声を掛けていた。 慣れ故の手際の良さに頼もしさを感じつつ、口の減らない弟分に文句が言えないもどかしさと云えば相当なもので。己の不始末が呼んだ結果である事を棚に置いて古田は眉を跳ね上げた。 「間違いがあっては困りますし、確認しましょうか」 言葉通りの困った顔で間に入り、瀬田が二人を宥める。 顔を背け饅頭を頬張る牧村も耳を傾けているという前提で、瀬田は聞いた話を繰り返した。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加