第1章「デメコとムクロ」

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   “Deathless Memory Controller”――永久記録の管理者。  通称“デメコ”。  それがデメコに与えられたコード。  デメコは死ぬことができない。  傷を高速治癒させるプログラムが組み込まれており、また、腕などの喪失に関しても問題なく対処する。仮に細切れにされたとしても、コア――それは目に見えない――を中心とし、再構成される。  また、体のいたるところにバックアップがとられており――ありえないことだが――コアが消滅しても、コアの消滅を他の部位が知るなり、たとえば右足からでもデメコは作り直される。  主な動力は空気中の水分。食事、排泄、睡眠といった生理的欲求は排除され、ことごとく効率化された存在。  また、生物にとって当然のシステムである老い、そして死もまた、デメコにはプログラミングされていない。  デメコは死ぬことができない。  かつて存在していた“科学者”というものに――いや、“社会”そのものに求められた記録媒体。  それがデメコ。  人類のあらゆるものをデータとして“記録”してきたデメコには、思い出という“記憶”はほとんど残されてはいない。  
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