もっと囁いて

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行く宛なんてない。 足がもつれる。息が詰まる。でも立ち止まれない…。 啓の傷付いた顔が脳裏に浮かんでは後悔と自責の念にかられ、立ち止まると更に自分で自分を責めてしまいそうで…。 5月の肌寒い空気が走り続ける俺の頬を撫で、火照った熱を拐う。 何も考えず、何も考えないように無心で走ったが遂に俺はもつれた足で体勢を崩し派手に転んでしまった。 「くしょう…。ちくしょう!」 膝や両掌を思いっきり擦りむいた。 疲れた…。 呼吸が荒くうるさいくらい耳に響く。 足だって痺れたように動かない。 もう立ち上がるのがめんどくさい…。 俺は転んだままの体勢で、チリチリと痛む掌をぐっと握りしめた。 じゃりっと爪に砂が当たったのが分かる。
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