もっと囁いて

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約束を交わした後に後悔した。 しかも同じ日の同じ時間に撮った写真だなんて。 よく自分で提案したものだと驚いた。 ふじりんごからの日時を指定された休日。 決められた時間より一時間早く家を出た。 というのも藤がどこで咲いているのか知らなかったからだ。 近所を歩き、広い庭を見ては覗き込む。 端目から見たらは不審者に見られかねないほどウロウロして挙動不審だったと思う。 歩き疲れて目の前の公園に入り、カップルが座っているベンチを一瞥して隣のベンチに座った。 ズボンのポケットからスマートフォンを取り出して時間を確認すると約束の時間までもう10分を切っていた。 守れる確証もない約束はするもんじゃない…。 無理だ…。 ため息を吐いたタイミングに緩やかな風が吹いた。 その時、微かだが甘い花の香りがした。 「おい!この公園に藤、咲いてるか!?」 たいして距離の離れていないベンチ。 突然話しかけられたカップルは何事かと驚きじろじろと俺を見た。 「聞いてンかよ!ここに藤はあんのか!」
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