もっと囁いて

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アパートに着き、玄関口の上にある小窓を見た。 1LDKで仕切りに使われている襖を取り払った部屋はこの小窓から明かりがこぼれる。 (帰ったか…) 暗い小窓にガックリと肩を落とし、一歩ずつ踏みしめるように階段を上がった。 鍵のかかったドアを開け、靴を脱ぎ、部屋にあがる。 ふっとさっきまでのセックスの残り香がまだあるような気がした。 (啓…) 啓の白く滑らかな背中。 突き上げる律動で跳ねるように揺れるハニーブラウンの髪。 俺の腕を掴む細い指。 ジンと下腹部が疼き、それを払うように明かりをつけた。 出ていく時まで乱雑だった部屋は綺麗に整頓され、乱れていたシングルベッドは新しいシーツに替えてベッドメイクされていた。 どんな思いでしてくれたのだろう…。 そう思うと同時に仲直りするチャンスを逃したと落胆する。
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