もっと囁いて

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今すぐに抱きたいと思った。 だが啓は部屋に入るなり部屋の掃除を始めた。 あの日から1週間もたっていない。 掃除をするほど散らかってもいない…。 俺はベッドの上に追いやられるような形で待機をさせられた。 フローリングの床に脱ぎ捨てたままの衣類を洗濯かごにまとめ、テーブルに置かれた食器類を流しに運び洗う。 俺はそっとベッドから降りて食器洗いをする啓の背後に忍び寄り腰に手をまわし啓の首筋に顔を埋めた。 急にそんなことをされた啓は驚いて持っていたコップを落としたが割れることはなかった。 だが横目で睨まれ俺は気づかないふりをした。 「啓…」 吐息混じりに呟いた。 息がくすぐったかったのか僅かに肩を竦めた。 その仕草が可愛くて俺はクスッと笑った。 皿をすすぎ、食器かごに置くと、左手の親指と人指しを付け合わせ、顎にあてて前に出して合わせた指を開いた。〈やだ!〉というサインだ。 俺は簡単に〈ごめん〉という手話をして謝った。 こんな事でも嬉しく思う。 すすぎ終わり、啓は水道の蛇口をきゅっと閉めると濡れた両手をシンクの縁に置いて「ふぅ…」と息を吐いた。
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