もっと囁いて

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さっきまでの浮き立った気持ちが一気に萎んだ。 腰に手をまわした腕に力を込めた。 こうして拘束することで啓の離れていかないように…。 もう自分が啓から離れないように…。 「どうしてため息つくんだよ…」 不安がざわざわと沸きだつ。 振り返ろうとする啓に逆らうように強く強く 抱き締める。 濡れた冷たい手が俺の腕に添えられる。 腕を緩めてほしいと言うように、優しく擦る手に宥められ俺はゆっくりと腕の力を緩めた。 完全に腕をはなさず、いつでも繋げるように警戒した。 そうと知ってか知らずかゆっくりと振り返った啓の表情は緊張していた。 強ばった頬、きつく結ばれた唇。いつも優しく俺を見つめる瞳は陰りをのぞかせる。 その瞳から俺は目をそらした。 その表情が何を意味しているのか…。今の俺は考えたくない事ばかりが頭をよぎる。 こっちを見て。というふうに啓は腕を伸ばし俺の頭を撫で促す。 そらした目をきつく瞑る。 啓の手が頭から離れ頬に触れる。 ポタッ…。 と、水道の滴が落ちる。 二人で居るのにとても静かだ。 頬に触れる啓の仕草は優しいのに、この静けさがいうことを聞かない俺を責めるような感じがして瞑った瞼を開き控えめに啓を見つめた。
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