もっと囁いて

6/47
前へ
/53ページ
次へ
ずっと我慢していた。 単純で、でも言いづらい…。 自分の掌を見つめ、悩んでしまった。 それがいけなかった。 何かあると分かった啓は何度も教えるよう催促してきた。 行為に不満があるなんて言えない…。 〈言わないとわからない〉 眉を寄せ、必死な表情を作る。 〈噛むのをやめろ〉 啓の右掌に指をなぞり、歯形の残った左手の母指球(親指の付け根にある肉厚の箇所)を親指のはらで撫でた。 「アザになってるじゃないか…。」 いつもそうだ…。 苦し気に顔をしかめ声を押し殺すように自分の手を噛む。 見ていてこっちまでもが苦しい…。 啓はふるふると首を振って無理だと示した。 「噛まないで喘げばいいだろ?」 簡単な手話ぐらいしか習得していない俺は口で攻める。 でも啓は何を察したのか、〈ごめん〉と手話をした。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

82人が本棚に入れています
本棚に追加