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液晶画面を見下ろした啓は顔をあげた。
さっきまでの必死な顔から切なそうに唇を噛み、ハニーブラウンの髪を揺らしながら首を横に振った。
「なんで無理なんだよ!!出せるだろ声!言葉を喋ろとは言ってないだろーがよ!」
何故そこまでに頑ななのか俺には理解できない。
ごめん。と何度も手話で謝る啓に余計腹が立つ。
「謝んなよ、謝んな!!」
怒鳴る俺の声は啓には届かない…。
虚しい…。
虚しい…。
堪えきれなくなった俺はこの場を逃げるように部屋を出た。
古いアパート。
鉄の階段をカンカンカンッと音をたてかけ降りた。
啓は追いかけてくるか?
そんなこと期待したり、ましてや確認するとこもなく俺は息の続く限り走った。
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