落としたメモ

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長原ミリは小さい旅行鞄に一泊二日分の荷物を詰めていた。 同棲中の恋人タケルはスマホで電車時刻の確認をすると、まだ支度中のミリを急かした。 「そろそろ出ないと間に合わないぞ。あらかじめ出発時間を決めているのに、結局バタバタする。段取りが悪いんだよ」 気の短いタケルは支度の遅いミリにイライラしている。 『だって、化粧をしてからじゃないと化粧道具をしまえないもの。どうしてもバタバタになるわよ』 不満顔になったミリをタケルは咎めた。 「俺は何か間違ったことを言ったか?」 「いいえ」 せっかくの旅行が台無しにならないよう、ミリは不満を抑え込んだ。 何となくぎくしゃくしたまま、二人は出発した。 今回の旅行は3年前に亡くなったミリの両親のお墓参りを兼ねている。 ミリの両親はミリがまだ大学生の時に自宅で殺された。 バイトで遅く帰ったミリが発見した時にはすでに血も乾き、冷たくなっていた両親。 ショックを受けたミリが警察より先に恋人タケルに電話をしたほどミリはタケルを信頼していた。 まだ犯人は捕まっていない。 殺人現場となった家は近くにあり、無人のまま放置されている。 一人になったミリを心配したタケルが卒業前から同棲してミリを支えてくれた。 幸い事業で成功していた両親は充分なお金を残してくれたので、ミリは無事大学を卒業、OLとなり、タケルは就職に失敗、フリーターとなった。 普段の生活はミリがほぼお金を負担している。 二人が家を出ると、刑事の蓮沼が鋭い目つきで近づいてきた。 「ご旅行ですか?」 蓮沼は最近事件の担当となり、ミリは何度か訪問を受けていた。 「ええ、これから両親のお墓参りを兼ねて旅行をしようかと」 「旅行ということは、お墓は遠いところにあるんですね。泊りがけですか?」 「はい」 「ちなみに場所はどちらですか?」 「えっと…」 ミリの言葉をタケルは遮った。 「早く行かないと電車に間に合わなくなる!」 ミリは軽く会釈して、タケルに引っ張られていった。 二人が立ち去ると、小さな紙片が落ちていることに蓮沼は気付き、それを拾った。 『XX県。ゆあみ宿…』 タケルは嫉妬の顔でミリに文句を言った。 「新しく担当になったあいつ、いつもお前を見ている。妙にお前に馴れ馴れしく喋るし、本当はお前を狙っているんじゃないか?」
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