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さすがに耐えかねたミリは反論。
「何くだらないことを言っているのよ。仕事よ。あの熱心な刑事さんなら犯人を捕まえてくれるかもって、とても期待しているの。変な目で見ないで」
「いや、あいつはお前を見張っている。俺には分かる」
もう余計な嫉妬は止めて欲しい。
これでも精一杯気をつかって、男性には愛想笑いをしないように心がけているのだが、蓮沼は犯人探しをしてくれる刑事だから冷たく無視するわけにはいかない。
いくら説明しても分かってくれないことがもどかしい。
タケルはコンビニの店員でも、カフェの店員でも、ミリが男と話すだけで不機嫌になる。
こうしてミリの周囲から男も、時には女友達もタケルは遠ざけてきた。
もうミリには一人も友達がいない。
頼れる人はタケルだけなのだ。
駅に着くとミリは鞄の中を探した。
「あら? 電車時刻を書いたメモがないわ。乗る電車から宿泊先の名前と電話番号まで載っているのに」
それを聞いたタケルはさらに不機嫌になった。
「今時紙のメモなんて恥ずかしい。なんでもスマホで済ませられるんだから、早くスマホに変えろよ」
ミリのガラケーには両親とやりとりしたメールや、両親の写真が入っている。
両親がこの世にいた思い出の残る大切なガラケーだ。
だから買い替えたくないのにタケルは何かにつけて買い替えろとうるさい。
まるでミリの両親にも嫉妬しているみたいに。
◇
宿へ行く前に墓参りをした。
お墓は一族の墓ではなく、ミリの両親だけのお墓で、3年前にミリが建てた。
ミリは墓前でタケルに両親の話をした。
「私の両親は駆け落ちで故郷を出たの。二度と故郷には帰らないって決意して出たけど、死んだら戻りたいって、生前ここに新しいお墓を買っていたのよ。だから遠いけど私はここに埋葬したの」
「ふーん」
タケルはあくびしながら話を聞いている。
墓参りを無事終えて温泉旅館「ゆあみ宿」に着くと、タケルから「サプライズがあるんだ」と言われた。
「えー!? 何!?」
タケルは一枚の紙を出した。
婚姻届だった。
「ミリ、愛している。明日、結婚しよう」
「ええ!?」
嬉しいけど明日なんて急だ。
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