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「ヒロインを想う気持ちは幼馴染だったセツナの方が強い。けれどもヒロインはアイクを選んだ。そこでアイクは選ばれなかったお前の分もヒロインの事を大切にするぞって気持ちでライバルとしてではなく、ただ友情の印として抱きしめたのさ」
まぁ、それが目の前にいる読者に伝わっていないのは致命的なミスだが。
「男の友情、良いですね。私、そういうの大好きなんです。でもちょっとこの小説には不向きかなって思います」
それから彼女は言い辛そうに僕から視線を外すと、重い口をゆっくり動かしながら答えた。
「こういうの作者さんを目の前にして言うのかなり失礼かと思いますけど……でもやっぱりヒロインとの話をもっと深く書いた方が良かったかなって思います」
酷く残念な気持ちで、しかし顔からは笑みが零れた。
五年間ずっと編集さんと一対一で小説を見てもらい修正の日々だった。でも、今になって思うとそれは間違っていたのではないかと思わされた。
人によって見える世界は違う。つまり同じように小説を読んだとしてもそれぞれ感想は違ってくるのだ。だから編集さんだけでなくもっと多くの人に読んでもらうべきだったんだ。
こう感じさせてくれた彼女に感謝を込めてこう言おう。
「ありがとうございます。その意見、大切にします」
「いえいえ、一読者の意見なんで大切にするほどじゃないですよ」
数分前とは違いとても謙虚な返答だった。謙虚、それは人を駄目にする。そう僕の小説の主人公アイクは言っている。だから僕はその謙虚さに悲しみ、そうさせてしまっている自分を恨んだ。
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