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だからそんな自分と彼女に向けて、僕は言葉を紡ぐ。
「……一読者だから……まだ出版したばかりで、まだ編集さん以外に読んでもらったことがなかったから、とても嬉しかったんです。だから、あなたの意見の数々大切にさせて下さい」
少し自分が恥ずかしくなった。静かな本屋で何力強く彼女に語っているのかと。でもその代わり、彼女の晴れた表情を再び見る事が出来たので、こういう恥ずかしさも悪くないと思うのだった。
「そうですか……じゃあその代わり先生の次回作、期待させてもらっても良いですか?」
「え?」
次回作。それは思考の端にはあったが決して触れようとしなかったものだ。書く必要がない。いや、違う。それは書けない自分に対する良い訳だ。
「次回作はもちろん今書かれているんですよね?」
「え……あっ……それは……まだ何も」
正直にそう答えると彼女は何か言いたげな表情を浮かべた。だから僕はそんな彼女から言葉を出させるために、ただ本音を告げる。
「書けないんだ。何度も何度も考えたけど、これ以上の作品はもう……」
書けない。そう言いかけた時、
「先生は初め、どんな気持ちで小説を書いていましたか?」
「へ……?」
「楽しく書いてなかったですか? 少なくとも今の先生みたいに苦痛の中で小説を書いていなかった筈です」
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