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「……」
答える事が出来ない。肯定してしまうと今の自分が苦痛の中で小説を書いている事が彼女に知れるからだ。
「図星ですね。だからと言って昔の自分を思い出して書けだなんて言いません。でも、先生は小説家です。小説を書かないといけません」
ぎゅっ、と彼女は手を握りしめ、言葉を続ける。
「先生は小説家の夢を諦めた私とは違います。なりたかった夢をようやく叶えられたんです。だから先生は私が諦めた事を後悔するぐらい面白い小説を書いて下さい。じゃないと、先生が書けなかった面白い小説を書いて先生を後悔させてあげますよ」
言って、彼女は鞄から携帯を取り出す。そして、ある画面を僕に見せた。
「携帯小説のサイトです。小説家の夢を諦め、今は大学に通っていますが、私はまだここで小説を書き続けています。おそらく先生の小説よりも読者は多いですよ」
「ほう。それは小説家である僕に喧嘩売っているのかな?」
いたずらっ子のような笑みを浮かべる彼女は携帯を閉じる。
「はい。先生がのんびりしてるとあっという間に先生よりも人気のある小説家になっちゃいますよ。だから」
はぁ、これは参ったな。
「頑張って下さい、先生」
「……あぁ、いつかきっと、いや直ぐにでもあなたが驚くような小説を書いて見せますよ」
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