読者第一号

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ふんっ、まったく僕ってば罪作りな野郎だぜ。このイケメン顔が悪いんだろ、とナルシスト風に思っていると、 「お客様、只今準備中でございまして……」 「おっふ……」   今度からは時間を確認して向かおうと心に誓い、自宅でしばらく待って再入店。   ただ本屋に入るだけなのにくたくたである。   先程目の付く所に置いた僕の本を再確認した後、近くで他の新作本を立ち読みする事にした。   客が少ないからと立読みを許してくれた本屋の店員に感極まりつつ読みふけていく。手にした本のタイトルは『悪魔ノート』。作者は浅賀彰人。   本屋が勧めるだけあって浅賀彰人の小説は面白かった。完成された話。しかし最後の場面では一つの謎が残り、二度目を軽く読むと、その謎に気付いてまた違う面白さを味わえるという工夫が施されており、正直圧倒された。   読者を小説の世界に上手く引き込むような表現、最初から最後まで無駄のない伏線、それをとんでもない方法で回収する発想力。   勝てない。僕にはこんな面白い小説一生かかっても書けない。   それに比べて僕の小説ときたら……。   と、思い詰めながら奥歯を噛み締めた僕だったが、 くすっくすっくすっ。   隣で微かに聞こえた笑い声でふと現実に戻った。
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