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横目で何を読んでいるのかと覗くと、その本のタイトルは……、
「黒髪の侵略者……」
つい声に出してしまっていた。
「? あっ、すみません……ここ面白くってつい笑いが堪らず」
一瞬、固まってしまった僕である。
今まさに自分の作品の出来の低さに絶望していた時である。そんな時に、自分の作品が面白いと言う人が現れたとしよう。いや、現に目の前にいる。では、僕は何と答えれば良いのだろうか?
「ありがとう」
「はい? ありがとうってどういう事ですか?」
心に思った事をそのまま言ってしまった僕であったが、直ぐにそれは失敗であったと気付いた。
相手が僕の事を黒髪の侵略者の作者だと知らないのにいきなりありがとうと言われたら笑い声を聞かせてくれてありがとうと言っているようにも聞こえるではないか。
落ち着け僕。まだ間に合うぞ。
「い、いえ、何でもないです」
「は、はぁ……?」
一先ずはこれで安心だ。しかし、作者の僕としては感想が聞きたい。
よし、これから話を弾ませて感想を聞く事にしよう。作者だとばれると相手も感想を言いにくいだろうからばれないように会話をするんだ。頑張れ、僕。
と、思考を巡らせていた僕だったが、話す相手は女性。大学に行かず十年間小説を書き続けていた僕が女性と話す機会は出版社に希に出会う社員作家ぐらいなものだ。まともに話せる訳がない。
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