読者第一号

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思わず言葉を返してしまった。 「はい。なんて言うか……前のシーンは力が入っていて面白くするぞーって感じが出てたのにこのシーンに入った途端に作者のやる気が感じられなくなった気がするんです」 「つまり?」 「雑です」 ……時が止まった気がした。 他の作者の技術にはかなり劣るものの自分の中では完璧に仕上がっていた処女作だ。しかし、読者にそう思わせてしまったという事はつまり無意識のうちにそのように書いてしまったのだろう。 ここで言い訳を言わせて欲しい。読み手の事を考えた自分の好まない話は書いていて辛いものがある。それが小説の文に表れ、雑に書くという形で表現されてしまったのだと。僕的にはあのシーンを書くつもりは微塵もなかったのだと。 「あ、あのー、私、何か変な事でも言いましたか?」   やはりあのシーンは入れない方が良かったな。編集さんの言う事全て鵜呑みにするだけでは駄目という事か……。 「あ、あのー!」 「はい!?」   しまった!   僕の思考時間だけ時が止まるというのはファンタジーの世界の話だ。現に今、時は動いている。
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