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「ホントに占い師か何かだったのか?」
もう見えなくなってしまった彼女の背を追いながら、俺はさっきまで彼女がいたところにそう呟いた。なぜだかわからないけれど、そうすれば返事が返ってくるような気がしたから。
「そんなわけない、か。……帰ろう」
きっと多々ある奇妙な出来事の一つとしていずれ忘れ去ってしまうのだろう。だったら、忘れてしまう前に荀に話してみるのも悪くないな。あいつなら彼女の正体について面白い考察くらいしてくれそうだ。俺はそう思って彼女の進んだ方とは反対方向の階段へと足を踏み出した。
「ん? そういえば、どうしてあの人、俺の名前を――それも荀に聞いてみるか」
確か今日明日には帰ってくるはずだ。そういう連絡が先月末くらいに入っていたように思う。時間にうるさい荀だからまず約束を破ることはないだろう。それに、あいつが約束を破るはずもない。
「綺麗な月だな」
頬を刺し耳を千切る寒さが染み渡った空気を挟んで輝く月は街灯もまともにない夜道を照らしてくれる。三ヶ月近く会っていないあいつもきっとこの月をどこかで見ているんだろう。満月は荀の一番好きな月なはずだ。昔、好きな月の様子で言い争ったこともあったっけか。今も俺は三日月の方が好きだけど、満月も悪くない。
「『すべてが照らし出される満月には裏こそあれど嘘はない』か。それなら、荀。今の占い師のおばあさんの言葉にも嘘はないということか?」
月に尋ねたところで返事なんてあるわけはない。荀は別に輝夜姫ではない。
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