第三章

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洗い終わり干すところまで、斎藤さんは手伝ってくれた。 「何から何までありがとうございます」 「……」 「斎藤さん?」 「……呼び捨てで構わない。敬語もなしだ。次からは口をきかないぞ」 「えぇっ!? そんなぁ!!」 「ふっ……冗談だ」 さあっと風が吹き抜けて、斎藤さんの黒髪が靡く。 僅かに微笑んだ顔がとても素敵で。 思わず目を奪われてしまった。 「私、掃除があるので……じゃなくて、あるから行きま……行くね」 「次は掃除か。よし、行こう」 「えっ?」 スタスタと掃除道具がある方へと行ってしまう斎藤さん。 まさか、掃除まで手伝ってくれるのだろうか。 「円、どこの掃除をするんだ?」 そのまさかでした。 どこからか取り出したのかわからない襷(たすき)をかけて、雑巾を持ってやる気満々といった状態で縁側で待っている。 「廊下の雑巾がけしようか」 「雑巾がけか。じゃあどちらが早く終えることが出来るか勝負だ」 そう言うと、斎藤さんは雑巾を床に置いて手をついて構える。 なんだか勝手に勝負が始まってしまった。
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