第三章

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「葵です。よろしくお願いします」 「ま、円です。よろしくお願いします」 緊張して少し声が震えてしまう。 そんな私の様子を見て、つり目の男の人が笑った。 「あはは! お前もしかして芸妓になったばっかか?」 「はい。今日が初めてです」 正直に答えると、もう一人の男の人の眉がピクリと動く。 「君、なんか出来んの?」 「何かって……?」 「舞とか歌とか。何も出来ないわけじゃないよね?」 不穏な空気が流れる。 葵ちゃんもそれを感じ取ったのか、空気を変えるように口を開く。 「円ちゃんはまだ何も出来ません。代わりに私が……」 「君には聞いてない。どうなの? 出来るの? 出来ないの?」 「おいおい稔麿(としまろ)……。まだなりたてって言ってんだからよ」 どうしよう。私に何か出来ることって言われても……。 「わ、私は……」 諦めて何も出来ないと言おうとした時、ある一つのものが目に入る。 それを指差して、稔麿と呼ばれた彼を真っ直ぐに見つめた。 「あれなら……出来ます」
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