第三章

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立ち上がり、置いてあったそれを手頃な位置に持ってきて用意をする。 「円ちゃん、無理しなくても……」 葵ちゃんの心配そうな声をよそに、準備を進めていく。 目の前にある十三本の弦。 それを指で上から弾いてみると、少しだけ音が狂っているところがあった。 柱を動かしてもう一度弾いて確かめると、今度は丁度良い音になっている。 音楽の授業でしかやったことないから少し不安だけど……出来るよね? 目の前にある琴を眺めて、ふうっと一度息を吐く。 「琴の演奏ね……。君に出来るの?」 「本当に簡単なものしか出来ないですけど。やれと言われた以上やりますよ」 シーンと部屋が静まり返る。 七弦に指を置くと、鼓動が少しだけ速くなった。 大丈夫。私は出来る。 ボーンッという音と共に、私の演奏が始まった。 ……… ………… …………… ……………… 「……これが、今の私に出来る精一杯です」 演奏が終わって稔麿さんを見る。 最初と変わらない無表情で私を見ていた。
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