第三章

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ああ。やっぱりだめだったか。 私が弾いたのは「さくら」。 音楽の授業の琴の練習で大抵使われるこの曲なら、楽譜などなくても覚えていた。 他の曲なんて知らない。 私にはこれしかなかった。 初めてのお客さんで早速失敗するとは、これからが思いやられる。 「ふ……ふふっ……」 がっくりとして俯いていると、誰かの笑い声が。 「えっ……!?」 「き、君最高だね。ふふっ。無茶ぶりだったのにやり遂げるなんて」 笑っていたのは稔麿さん。 つり目の男の人も葵ちゃんも驚いた様子で彼を見ている。 「度胸があって良いね。気に入った。円、だっけ? これからここに来たら君を指名するから」 「わ、私をですか!?」 「うん。君を。美人で度胸もあって面白い。君みたいな女を探してた」 未だに楽しそうに笑っている稔麿さんを見て、安堵のため息が漏れる。 葵ちゃんを見ると、にこりと微笑んで頷いてくれたから、OKということだろう。 それから私達四人は時間が来るまで、会話をしたりして楽しんだ。
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