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どれくらい時が流れたのだろう……
今の私に時間の感覚は無い。
まどろみの中で、うたかたの夢を見ては、たまにこうして、動かぬ自分の身体を見つめている。
交通事故に遭った私は、所謂、植物状態で身体は眠ったままだった。ベッドの頭部に設置された機械から伸びるチューブが、私の生命を繋いでいる。
「マァー マァーマ……」
私が事故に遭った時、まだ一歳にも満たなかった私の一人息子。彼の小さな手のひらが、優しく私の頬に触れた。
ぷにぷにとした指先。優しいぬくもりが、私の頬に染み渡るが、私はそれに応える事は出来ない。
抱き上げてあげたい……
だが、涙すら流せぬ我が身が、情けなくて悔しかった。
「……辰也。帰るぞ」
息子を抱きながら、旦那が私の手を握りしめた。
「明日また来るよ」
寂しそうに言って、私のおでこに軽くキスをした。
やつれ果てた旦那。
旦那は私の事故と共に会社を辞めてしまい、毎日、息子を連れて病院を訪れては、面会時間の許す限り、私の側に寄り添ってくれていた。
動かぬ身体だが、人の声は聞こえているし、手のひらから伝わる、ぬくもりも感じていた。
今、こうして、眠ったままの自分自身を見つめている、私と云う存在が魂なのか霊なのか理解も判断も出来ないが、病院のフロアー程度なら移動する事も可能だった。
だが
『あなた!辰也!私はここよ!!』
どんなに叫んでみても、私の愛する者に、私の声は届かないし、姿を認識して貰う事は出来なかった。
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