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◇
「ありがとうございましたー」
店員の言葉を背に受けながら、コンビニの自動ドアをくぐる。蒸しっとした夏の熱気とうるさい蝉の大合唱が、再び私を出迎える。
行きつけのラーメン屋が休業だったことは、大きな誤算だった。付近にはもう一つラーメン屋があるが、不味いために行く気にはとてもなれない。
仕方なくコンビニでおにぎりを3つ、そして缶コーヒー1つを買ったが――さて、どこで食べようか。このコンビニの中にはイートインができるスペースがなく、かといってわざわざ大学に戻るのも面倒くさい。
どうせ買ったものはおにぎりであるし、立ったまま食べることもできる。このまま、コンビニの軒下で食べようか。直射日光に当たらなければ、この暑さもそこまで苦になるものでもない。
ミンミンミン、ニイニイニイニイ。
相変わらず蝉時雨がうるさい。
先ほどSNSを確認したところ、どうやら先ほど旅行に行くと言った彼女は、サークルの女子たちで一緒にいくそうである。旅行に行く費用も出し合ったらしい。男子と一緒でないことに安堵するべきなのだろうか。
しかし、結局自分にここ数日間の予定がないことに変わりはない。
「旅行、いいなあ」
溜息とともに、つい、口から言葉が洩れる。私も友人たちと都合が合えば行けたのだろうか。いや、さすがに外国に行くには資金面できびしいだろう。彼女達も旅行先は日本国内で、さらには、レンタカーを交代して運転して行くのだ。
口から出た行き先のない言葉は、そのまま蝉時雨に飲み込まれ消えるはずだった。
そもそも、だれに向けた物でもない、勝手に漏れた、ただの呟き。聞いてもらおうとすら思ってはいない。
しかし、意外なことに、私の言葉には返事が来た。
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