第一章:In diebus aestatis 

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「旅行に、行きたいの?」  驚いて声がした方――左をみる。  そこにはコンビニで買ったであろうアイスバーをなめながら、私を見つめている少女がいた。いつからいたのだろう。全く気付かなかった。  その子の年齢は小学生くらいに見えた。それも明らかに高学年ではない。  彼女は白いワンピースに身を包み、染色ではない、本物のロングのブロンドヘアーをそよそよと吹く夏の風に揺らしていた。  自分を見つめる二つの瞳は青く、いや、蒼く、夜空を思わせた。明らかに外国人のはず——しかし、その顔はどこか日本人のものを感じさせた。  少女は私と同じくコンビニの軒下の影で涼みながら、アイスを舐めていた。 「旅行に、いきたいの? お兄さん」  少女は全く違和感のない日本語で、もう一度私に問う。 「あ、うん、そう言ったけど」  予想外の事態に戸惑いながら答える。いや、予想外であることだけではない。  正直、少女は美しかった。まるで作り物のように。話すことが緊張するほどに。  一応言っておくが、私はロリコンではない。 「なんでいかないの?」 「なんでって……お金がないからさ」  この子の年齢なら、よくわからないかもしれない。旅行に行くのなら家族ぐるみであるだろうし、修学旅行でも、払うのは自分ではなく親だ。自分でお金をだして旅行に行くことなどしないし、できない。 「ふーん」  納得したのか、そうでないのかよくわからないが、少女は何かを考えながらアイスを舐める。アイスバーは、半分ほど消費されていた。  正直、心情的にあまり「旅行」について触れてもらいたくないのだが。 「旅行にいきたいってことは、遠くの場所にいきたいってこと?」 「うん……? まあ、そうなるのかな……?」  あまりにトートロジーな質問な気がする。 「じゃあ、お金がかからずに、遠い場所に行けるとしたら、行ってみたい?」 「……それはもちろん」  なんだか話がうさん臭くなり、思わず身構える。もしやこれは、新手の詐欺まがい商法なのだろうか。  詐欺に子供が利用されることは聞いたことがある。 「じゃあ、僕がつれていってあげようか?」 「はあ?」    思わず声が出る。  一人称が「僕」なのかこの子は。すごいギャップである。正直「わたくし」とかを想像していた。  いやいや、それは今問題ではない。この子は何と言った? 連れて行ってあげる、と?  あまりに突拍子もない話だ。本当に詐欺なのかもしれない。
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