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「旅行に、行きたいの?」
驚いて声がした方――左をみる。
そこにはコンビニで買ったであろうアイスバーをなめながら、私を見つめている少女がいた。いつからいたのだろう。全く気付かなかった。
その子の年齢は小学生くらいに見えた。それも明らかに高学年ではない。
彼女は白いワンピースに身を包み、染色ではない、本物のロングのブロンドヘアーをそよそよと吹く夏の風に揺らしていた。
自分を見つめる二つの瞳は青く、いや、蒼く、夜空を思わせた。明らかに外国人のはず——しかし、その顔はどこか日本人のものを感じさせた。
少女は私と同じくコンビニの軒下の影で涼みながら、アイスを舐めていた。
「旅行に、いきたいの? お兄さん」
少女は全く違和感のない日本語で、もう一度私に問う。
「あ、うん、そう言ったけど」
予想外の事態に戸惑いながら答える。いや、予想外であることだけではない。
正直、少女は美しかった。まるで作り物のように。話すことが緊張するほどに。
一応言っておくが、私はロリコンではない。
「なんでいかないの?」
「なんでって……お金がないからさ」
この子の年齢なら、よくわからないかもしれない。旅行に行くのなら家族ぐるみであるだろうし、修学旅行でも、払うのは自分ではなく親だ。自分でお金をだして旅行に行くことなどしないし、できない。
「ふーん」
納得したのか、そうでないのかよくわからないが、少女は何かを考えながらアイスを舐める。アイスバーは、半分ほど消費されていた。
正直、心情的にあまり「旅行」について触れてもらいたくないのだが。
「旅行にいきたいってことは、遠くの場所にいきたいってこと?」
「うん……? まあ、そうなるのかな……?」
あまりにトートロジーな質問な気がする。
「じゃあ、お金がかからずに、遠い場所に行けるとしたら、行ってみたい?」
「……それはもちろん」
なんだか話がうさん臭くなり、思わず身構える。もしやこれは、新手の詐欺まがい商法なのだろうか。
詐欺に子供が利用されることは聞いたことがある。
「じゃあ、僕がつれていってあげようか?」
「はあ?」
思わず声が出る。
一人称が「僕」なのかこの子は。すごいギャップである。正直「わたくし」とかを想像していた。
いやいや、それは今問題ではない。この子は何と言った? 連れて行ってあげる、と?
あまりに突拍子もない話だ。本当に詐欺なのかもしれない。
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