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「あの、旅行に連れて行ってくれるというのは……?」
わけがわからないため、少女に質問する。旅行の話をしていたはずなのに手品を披露されているのだ。
むしろ、これで理解が追い付く人がいたら見てみたい。
「え、これから旅行先に送るんだよ?」
少女はきょとんとしている。
「いや、これ手品だよね? 僕たちは旅行の話をしていたよね?」
「そうだよ? だから、これから旅行先に送るの」
だめだ、会話が成り立っていない。
やはり関わるべきじゃなかった。
「それよりお兄さん、頭痛とかしないよね? それか、変な声が聞こえるとかもないよね?」
「しないし、聞こえるのは君と蝉の声だけだけど」
君の行動の意味不明さに、頭痛はするが。
「よかった。じゃあ問題ないみたいだね」
「いや、大ありだよね?」
そう言って、この模様の範囲から出ようとする。
が、でられない。
「え?」
模様を構成する一番外側の円、その外に出ることができない。まるでそこに壁があるかのように、何かに阻まれる。
「なんだこれ、どうなってるんだ?」
これも手品だとしたら、いったいどのような種なのか――。
「準備OK、適性OK、よし、じゃあ送るよ? スリー、ツー、ワン――」
ゼロ。
その瞬間、目の前が真っ白になった。
しっかりと立っていたはずの地面の感覚が消える。
あれほどうるさかった蝉時雨の音が消える。
そのことに混乱する間もなく、私は意識を失った。
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